「ふぐ」の話
冬の味覚と聞いて何を思い浮かべますか? 寒い季節にはやはり鍋料理。牛鍋やアンコウ鍋などたくさんの鍋がありますが、フグを使った鍋料理はいかがでしょうか。
フグというと、毒があって怖いというイメージがあるかもしれません。でも、山口県下関市では「福」に通じるとして「フク」と呼ばれるように、縁起のよい魚なんです。 今回はフグとフグの毒に焦点を絞って、その秘密に迫ります。
独特なフグの生態
(フグが膨らんでいるところ)
フグはフグ科の魚の総称です。 フグ目という括りでみると、カワハギやハコフグ、マンボウなどもすべてフグの仲間。
ただし見た目はずいぶんと異なり、カワハギなどは体が平べったくフグの仲間には見えませんよね。
フグの仲間の多くは、上下のアゴに2対ずつ、クチバシのような板状の歯をもつのが特徴です。その様子がそのまま学名になっているほど。
そしてフグといえば、大きなお腹も特徴的ですよね。水や空気を飲んでお腹を膨らませて外敵を威嚇し、自分の身を守っています。
そのため、肋骨をなくしたり、厚くて固い身で内臓を守るよう進化していきました。泳ぎ方も独特で、腹ビレのないフグは背ビレと尻ビレを使いつつ、尾ビレは方向転換用の舵のような役割を担っています。
一口にフグといっても、日本には7属50種ほどの仲間がおり、 細かい特徴はそれぞれ異なります。中にはシロサバフグのように、体が小さなトゲに覆われているフグも。 といっても、これまたフグ目の魚であるハリセンボンのような強いトゲはもっていません。
(フグ目のハリセンボン)
フグの中でも高価で知られるのがトラフグです。北海道南部から鹿児島にかけての太平洋沿岸、日本海や東シナ海など、あらゆる海水に生息しています。
淡水で一生を過ごすフグもいるなど生態はさまざまですが、 基本的には水深の浅い砂や泥、岩礁に生息し、産卵もそこで行います。
トラフグの取り扱いで有名なのが下関の唐戸魚市場です。 トラフグ(日本海・東シナ海・瀬戸内海系群)の2018年の資源量は633トンと推定され、そのうち約3割程が漁獲されています。同市場では、最盛期にはなんと2,000トン近くが取り扱われていました。
(フグがデザインされた下関市のマンホール)
海で獲れるイメージのフグですが、漢字で書くと「河豚」。豚に似ているため、河豚と名づけられたと伝えられています。
「河」とつくのは、中国では揚子江や黄河といった河に生息したからとのこと。ちなみに海の豚は「イルカ」で、こちらは豚には似ていませんね。
フグが毒をもつ理由
(泳いでいるトラフグ)
フグの特徴として真っ先に思いつくのは、強力な毒でしょう。テトロドトキシンは青酸カリの500倍から1,000倍もの強い毒で 、加熱しても破壊されません 。種によって毒の強さは異なります。また毒をもつ箇所も異なり、多くの種類は、肝臓や卵巣などの内臓と皮に高濃度の毒が含まれています。
なお日本でのフグ毒の事故発生件数は毎年30件ほどで、フグ毒が原因で亡くなる方が出てしまう年もあります。事故を無くすため、フグの調理・有毒部位の除去には免許が必要と、都道府県ごとに定めています。
それほど危険な毒ですが、実はフグ自身が生産したものではありません。 食物連鎖でフグに溜まった毒が、ほかの魚と違って体外に排出されずに、生物濃縮でフグ毒をもつようになりました。
毒のないフグもいる?
古来、フグの毒と闘ってきた日本人ですが、現在は毒をもたないフグもいます。1980年代から日本国内で無毒フグの養殖が始まりました。
これは、無毒のエサで飼育すれば毒化しないことがわかったからです。
一方で毒のある箇所が特定できない雑種フグも近年、東北地方から関東地方にかけての太平洋沿岸で発見されています。
トラフグ属のショウサイフグとゴマフグが交雑することにより、毒のある箇所が通常とは異なっているそうです。
(ショウサイフグ)
古くから日本人はフグを食していました。約2万年前の旧石器時代の出土品から、フグ科の魚の骨が見つかっています。ただし、この時代のフグに毒があったかはまだわかっていません。
フグ料理
フグの身は淡白な味で、刺身や、唐揚げ、鍋や蒸し料理など、様々な料理に用いられます。
(「てっちり」と呼ばれるフグ鍋)
こちらは「てっちり」と呼ばれるフグの鍋。寒い季節に食べたくなりますね。
また、代表的なの料理の一つがフグ刺しです。「てっさ」とも呼ばれ、大皿に盛ったたくさんの薄いフグ刺しが、大輪の花を咲かせたように並ぶさまは鮮やか。このフグ刺し、薄く切るのには理由があります。フグは固い身をもつため、噛むときにアゴがつかれないよう、職人さんがちょうど食感のいい具合に薄く切っているのです。
(「てっさ」と呼ばれるフグの刺身)
(フグの唐揚げ)
こちらのフグの唐揚げは薄口醤油とおろし生姜でさっと味付けし、小麦粉をまぶして揚げたもの。シンプルな味付けで、フグ本来の味わいを楽しみたいですね。
このほかにも、フグのヒレを浮かべたひれ酒もなかなか。冬の季節、てっちりをつつきながらのひれ酒も乙なものですね。
だからといって、勝手に釣って調理するのは厳禁です。正しい知識のもと、フグを美味しくいただきましょう。
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