その怪魚の愛称は“ババチャン”!
「タナカゲンゲ」というその怪魚には、面白い愛称がついているという……。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します
■愛称の由来は顔!「タナカゲンゲ」 タナカゲンゲと正式名で呼ばれることはほとんどない。「ババチャン」の愛称で親しまれている。この名を広めたのは鳥取県岩美町というズワイガニ漁の盛んな町だ。ズワイガニの底曳網に深海魚のババチャンが多く混獲され、この町では古くから好んで食べられていた。漁師が太鼓判を押すほどうまいのだが、ほとんど市場で取引されることはなかった。なにしろ、見た目が怪しい。大きくなると全長は90センチくらいになる。体は細長くて縦に扁平、頭部は幅が広く口が大きくて目が小さい。その顔を見て、地元の人たちは親しみを込めて「ババア」と呼んでいた。ズバリ、おばあちゃんにそっくりだからだ。ババアからババチャンに改名して今に至る。 改名のきっかけは岩美町がズワイガニだけではなくババチャンでも町おこしをしようと思ったからだ。そうなると、地元の民宿や旅館で出す料理が「ババア」ではあまりにも印象が悪い。ということで「ババチャン」となったわけだ。最初は「あんな変な魚を食べに来る客なんていない」と否定的な声が多かったが、これが大当たり。今では岩美町は「ババチャン」の町として魚好きの間で知られる。 煮つけやから揚げ、昆布締めなど、岩美町のババチャン料理はどれも美味だが、もっとも広く人気を集めるのは「ババチャン鍋」だ。身の骨離れがよく、食べやすくて鍋向きの魚なのである。頭部にくらいついてシュパシュパ食べれば、皮と骨の間のわずかな身から、じんわりと滋味が広がってくる。口いっぱいに中骨に付いた白身をしゃぶりつけば、くせがなくて食べやすく、どこかひなびた風味に親しみが持てる。ボリューム感も申し分ない。また、淡白な白身だから合わせた野菜それぞれの味も生かしてくれる。どんどん出てくるだしは濁りなく、上品だから食べ飽きることもない。さすがおばあちゃん。あっぱれである。 ババチャン鍋 ①包丁の刃先で表面のぬめりを取り除き、胸ビレの元から頭を切り落とす。②背ビレを切り落とし、背から包丁を入れて二枚におろして内臓を取り除く。③腹骨を切り取り、身をぶつ切りにする。④頭部から胸ビレとエラを取り除き、頭を縦割にして血合いを洗い流す。⑤土鍋に水と昆布を入れる。沸騰したら昆布を取り出し、塩と酒、少量の醤油で味をととのえる。ババチャンの頭、身、シイタケ、エノキダケ、豆腐、糸コンニャク、白菜、長ネギ、春菊の順に煮る。好みで醤油ポン酢をつけて食べる。
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