世界の水産資源が減りつつあるなか、世界貿易機関(WTO)は、漁業の乱獲を促すような「有害」補助金を禁止しようと協議を続けている。しかし、各国政府によるそうした補助金は増える傾向にある実態が明らかになった。(参考記事:「なぜ日本は問題先送りの漁業補助金を撤廃できないのか」)
カナダのブリティッシュコロンビア大学が152カ国の補助金について徹底的に調査し、2019年11月号の学術誌「Marine Policy」に論文を発表した。これによると、2018年に支給された「有害」補助金は220億ドル(約2兆3660億円)に上り、漁業補助金全体の63%を占めるという。この比率は、2009年の調査と比べて6ポイント増加していた。
ここでいう有害な補助金とは、許容量を超えた過剰な漁獲を促すような補助金のこと。その補助金がなければ利益を生むことのできない漁業へ支給されたものなどを指す。例えば、燃料費を補助することによって、トロール船は地球の果てまで行って漁をすることが可能になる。この燃料費の補助だけでも、昨年は全漁業補助金のうち22%を占めていた。(参考記事:「衛星で漁船を追跡、なんと海面の55%超で漁業が」)
なかでも中国は、世界最大の補助金支給国で、2018年にはその額が全世界の補助金総額の21%を占める72億ドル(約7740億円)に上ったという。なかには有益で持続可能な事業への支援も含まれているが、過去10年間でそうした有益な補助金は73%減少し、燃料費や船舶の建造費など有害とされる補助金が2倍以上に増えた。
「今回の調査から何か明るいニュースを探そうと思っても難しいです。しかし、この結果を利用して、各国政府へプレッシャーをかけることはできるでしょう。WTOは有害な補助金を止めさせる立場にあり、海の環境に大きな影響を与えることが可能です」と話すのは、米国の非営利団体ピュー慈善信託の漁業補助金プログラム責任者であるイザベル・ジャレット氏だ。ピュー慈善信託は、今回の調査に資金を援助した。