サンマ不漁なのに外食産業が「生サンマ」を提供できるワケ
秋の味覚サンマが大不漁だ。漁獲量は例年の7分の1。市場の取引価格も昨年の倍以上と高騰し、外食業界もサンマメニューの発売延期など対応に迫られている。そうした中で、一部の飲食店は「生サンマ」を提供できている。明暗を分けたのは何か。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)
サンマ不漁 例年の7分の1以下
1キロ642円と市場取引価格は昨年の倍以上
秋の味覚が大ピンチ――。
8月に解禁となったサンマ漁が記録的な大不振に陥っている。漁業情報サービスセンターによると、8月の全国のサンマ漁獲量は1008トンと、例年の7分の1以下。1キログラムあたりの市場取引価格は642円と昨年(316円)の倍以上となっており、家計に影響を与えるのは必至だ。
8月1カ月間のサンマ漁獲量を遡ってみると、2010年以前は1万トンを超えることが当たり前。どんなに悪くても4000トン以上の水揚げがあった。1000トンまで落ちこんだ今年は、歴史的な不漁といっていい。
今年の漁獲量が減ったのには大きく2つの要因があるとされる。1つ目が、気候変動によって日本近海のサンマの数自体が減少したことだ。資源量が年々低下したことに加えて、海水温の変化により、日本近海にはほとんどサンマが来遊しなくなってしまった。
2点目が、外国船による漁獲量の増加だ。「中国や台湾をはじめとした国々がサンマの漁獲を増やした」(漁業情報サービスセンターの渡邉一功漁海況副部長)というように、日本以外でも需要が高まっているのだ。
この危機的状況は、漁師の経営を圧迫しており、「近海にサンマがおらず、2日以上かけて沖合まで向かっているため、燃料代がかさみ赤字となっている。休漁中の船も多い」(同副部長)
記録的不漁で外食業界も苦慮
大戸屋は生さんま定食を発売中止
記録的なサンマの不漁によって、外食業界にも大きな影響が出始めている。
定食チェーンの大戸屋では、毎年その年に根室沖で採れる新鮮なサンマを店舗で仕上げた「生さんまの炭火焼き定食」の発売が中止になった。「発売ができていない現状は残念だが、今後の目途が立ち次第発売を検討する」(大戸屋広報)と9月以降の回復に望みをかける。
一方で、例年通りサンマを提供できている外食産業もある。牛丼チェーンの吉野家では「さんま炭火焼き牛定食」を、回転ずしチェーンのかっぱ寿司でも「北海道産 生さんま」を通常通り発売している。
明暗を分けたのは、昨年のうちにサンマを確保できたかどうかだ。
外食では冷凍品でも呼称してOK
「生さんま」という表記に注意
さてここで、「昨年のサンマなのに生?」という疑問を抱いた読者もいるかもしれない。実は外食産業での「生さんま」という表記には注意が必要なのだ。
スーパーなどの量販店に行くと、「解凍さんま」という表記を見ることができる。こうした表記は、食品表示法に基づき定められた食品表示基準に基づいている。
ところが、食品表示基準が適用されるのは小売店で、実は外食業界はこの基準の適用外となっている。そのため冷凍品であっても、加熱処理や塩漬けをしていなければ「生さんま」と名乗れるのだ。
実際に「生さんま」表記を使うかっぱ寿司は、「炙りさんまと対比させるために、生さんまという表現を使っている」(同社担当者)と説明する。
史上まれにみる不漁の中でも、お手頃にサンマを提供できている外食業者は、昨年もしくはそれ以前に水揚げされ、冷凍庫でしばらく眠っていたサンマを使っているケースがほとんどだ。
同じく、「新サンマ」という言葉についても、消費者庁によれば「『新』という言葉に明確な基準はない」という。
「生サンマ」や「新サンマ」という表記は今年採れたばかりのサンマを連想するが、外食産業に限っては実態がそうでないケースも多く、冷凍サンマが多く出回っている。
9月以降のサンマの漁獲量も例年と比べて低調で、価格は高止まりすることが予想されている。「今年取れたサンマ」がお手頃に食べられる日は来るのだろうか。
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