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不漁にあえぐ「イカのまち」、美味なキングサーモン養殖に挑む…成功なら全国初

 「イカのまち」として親しまれながらスルメイカの不漁にあえぐ北海道函館市は、「獲(と)る漁業から育てる漁業」への転換を目指し、今年度からキングサーモンの養殖研究を始めた。2026年度から完全養殖試験に入る目標を立てているが、キングサーモンは人への警戒心が強く、養殖を断念した事例もある。成功すれば全国初という挑戦だ。(橋爪新拓)

【写真】イカのまちの救世主になるかもしれない魚

■北大と協力人工授精

(写真:読売新聞)
 キングサーモンは、和名「マスノスケ」と呼ばれ、北海道では太平洋沿岸で少量しか漁獲されないため、高級魚として高値で取引される。ノルウェーやチリから輸入されるアトランティックサーモン、国内各地で養殖されるニジマス、銀ザケなどに比べ、希少性が高い。上質な脂身が多く、美味で、養殖できれば高い人気を得られる期待がある。

 函館市は4~6月、定置網で混獲された天然魚56匹を入手。メスから卵を採取し、北海道大学が冷凍保存している精子を人工授精させた。卵はかえらなかったが、市水産課の大野孝悦課長は「1年目に天然魚を確保でき、養殖計画の出だしは上々だ」と話し、「完全養殖で安定供給ができれば、天然資源依存から脱却する鍵となる。市の新たな名産品として育てていきたい」と意欲をみせる。

 11月から市内の沿岸に設置するいけすの場所を選ぶため、潮流や耐久性の調査に入る。メスは4年で成熟するとみられ、18年度にかえった北大所有のキングサーモンから22年度に採卵できる見込み。うまくいけば26年度には天然魚に頼らずに養殖を繰り返す完全養殖試験を始めたい考えだ。

■イカ取扱量激減

 背景にあるのがスルメイカの不漁だ。市企画調整課などによると、市水産物地方卸売市場でスルメイカの取扱量は08年度に8924トンだったが、20年度は436トンに落ち込んでいる。今年度も不漁だ。

 函館頭足類科学研究所の桜井泰憲所長は原因として、〈1〉スルメイカ全体の資源量減少〈2〉日本海側の海水温が高く、群れの多くは適温の韓国やロシアなど大陸側を回遊した〈3〉イカが日本に来るまでに他国船に乱獲されている――と指摘している。

ブランド化、各地で活発

 サケ・マスの養殖は各地で活発だ。水産庁によると、2015年12月末時点で全国55か所だったが、21年2月末には97か所と倍近くに。他地域と差別化を図ろうと付加価値を重視している。

 山梨県は約10年前にキングサーモン養殖を手がけたが、「人の姿が見えると警戒して餌を食べず、成長しなかった」ため、ニジマスと交配させ、1キロ以上になる魚の養殖に転換。「富士の介(すけ)」と名付け、ふるさと納税の返礼品として人気を集めている。

 11年からは同県特産のブドウの果皮粉末を混ぜた餌を与えた「甲斐サーモンレッド」を売り出した。食味検査でうま味やコクが増し、苦みや雑味が減る効果が出ている。

 青森県ではニジマスに特産のリンゴやニンニクを混ぜた餌を与え、淡水で養殖した「青い森紅(くれない)サーモン」が昨年11月、15年かけた研究の末にデビューした。同県では津軽海峡の荒波にもまれていけすで育ち、身が引き締まったニジマス「海峡サーモン」も人気だ。

 愛媛県では、イヨカンオイル配合の餌を銀ザケに与えた「宇和島サーモン」が15年頃から出荷されている。

◆キングサーモン=東北地方沖から米カリフォルニア沖の北太平洋などに分布。サケ・マス類の中では魚体が最も大きく、4~6年で70~100センチに成長する。日本近海で親魚を捕獲するのは難しく、国内の流通品はカナダなど外国産が多くを占める。

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